【トロッコ問題4】リバタリアニズムやプラグマティズムの回答
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トロッコ問題は、プロセス主義(義務論)と結果主義(功利主義)の対立のジレンマを扱った思考実験なのですが、番外編として、別の思想も紹介します。
きっと、トロッコ問題を問いかけられた多くの人はこう考えるでしょう。「家族とか友達とか助けたい人がいる方を助ける!」
当然ですが、それの回答に功利主義者やプロセス主義者は真っ向から反対します。
しかし、今回紹介する方々はそんな邪道を堂々とやってのけるである....。
リバタリアン(リバタリアニズム主義者)の場合
リバタリアニズム(libertarianism)とは「自由こそが最強の正義であり人間の権利。個人の自由を剥奪するものは全て悪」という考え。
自由主義と表現されることも多いが、同じく自由主義と表現されるリベラリズム(liberalism)と被るのでややこしい。リベラル派との違いは、リベラルが自由を大切にしつつも、平等(功利主義的な考え)を優先するのに対して、リバタリアンは完全なる自由を志す。
彼らは経済学の父アダム・スミスが言った「神の見えざる手」を信奉する。権力を持った組織や勢力が余計な事をするから世界がおかしくなるんだ。だから何もせずに自由に放置しておけば、世界は落ち着くところに落ち着くんだよ。という考え方。
リバタリアニズムに乗っ取って、殺人を禁止する法律(権力による強制)がなかった事を考えてみよう。
ほとんどの人は「殺人を禁止する法律がなかったら、世界は殺人で満ち溢れてしまうよ!」と思うだろう。しかし本当にそうだろうか?その仮説が正しいなら、法律のなかった時代は、人々は毎日争いが絶えず血にまみれて暮らしていたいうことになる。(もちろんそんな事は無い。)
もし、ある村の男が同じ村の男を殺したとしよう。すると、その男は殺した男の家族によって復讐を受ける。それを見ていた村の他の人たちはどう思うだろうか?きっと「俺もあいつを見習って嫌いなやつを殺そう!」とはならないだろう。なぜならそのために報復を受けるのは面倒だからだ。
法律で規制せずとも個人の自由に任せることによって、「人を殺すと報復されるからやめておこう」という様に神の見えざる手によって落ち着くところに落ち着くのではないだろうか?
確かに、いつの時代も大量殺人を犯しているのは「自由な個人」ではない。人々を強制する「国家(権力で人々の自由を奪う組織)」による仕業である。
リバタリアニズムの回答
トロッコ問題も、リバタリアニズムの手にかかればこうなるだろう。
「別にどちらを選ぼうと自由だ。5人側を助けたいならレバーを引けばいい。まあその行動の後でお前が被害者の遺族に殴り殺されたとしても、自己責任だがな。」
このような場合も個人の自由に任されるということ。そして、その結果がどんなことになろうとそれも自己責任ということである。
う〜ん。辛辣ですね。。
プラグマティスト(プラグマティズム主義者)の場合
プラグマティズム(pragmatism)は「正しいかどうかを考えるのは意味がないので、その決定が実際に役に立つかどうかだけで判断しよう」という考え。
プラグマティズムは結果を重視する点で「功利主義」と似ているが、少し違う。
功利主義が、快楽の最大化という道徳観を重視するのに対して、プラグマティズムは、その知識や選択が実生活でいかに役にたつか?(結果が良いのあれば道徳はどうでもいい)という少し冷めた科学的なアプローチを取る。
プラグマティストの回答
「正しいかどうかは置いておこう。後々の事(結果)を考えると、レバーを引いたり太った男を落とす行為は、5人を救うためとはいえ「殺人」になってしまう。一方で何もしなかった場合は、ブレーキが壊れたことによる不運な事故として処理されるだろう。
犠牲にした1人の遺族に訴えられることは確実だろう。それに、5人を救った事が考慮されずに犯罪者として罰を受けてしまう可能性がある。もし考慮されて無罪になったとしても、そこまでのやり取りで精神的に疲れ切ってしまうだろう。
よし、裁判で不利にならないように何もしない!」
なんという合理的思考。。
プラグマティストは、道徳(プロセス)には一切こだわらずにあくまで実用(法律や結果)を考慮した上で考える。まあ、確かに赤の他人を助けるためにレバーを引いて、自分や自分の家族の人生が台無しになってしまったら元も子もないだろう。
彼らは、自分が法的に罰せらない状況、もしくはその5人が役に立つ人間、家族や親友、もしくは大統領やビルゲイツのような大富豪慈善家だったとしたら、1人を犠牲にしてでも助けていただろう。(重要な人間が1人側の場合はそちらを優先する)
やはりこの点において、数を重視する功利主義とは異なる。
次回予告
次回は、トロッコ問題の脳科学者の考察をお話しします。トロッコ問題のような道徳の思考実験をした際に最初(レバーの状況)と2番目(橋の上の状況)で、人々の意見が真逆に分かれてしまうのか?
その謎がついに現代脳科学によって解き明かされます!